【日々の制作-反復し検証するということ-】
今年に入ってから迷路の制作は夜間に行うことがほとんどでした。作品を描く前にはルーチン化された一連の手順を行います。
1 ノートに描き始めの時刻を記す。
2 作品保護のため、アームカバーと指先を切った手袋をはめる。
3 筆圧の高さから指を守るため、右薬指のみ筒状のガーゼを巻く。
4 作業机のライトを点け、これから描き込む範囲を確認する。
5 ペンを手に取り、ふたを開ける。
6 数分の間、左親指の爪の上にペンを走らせインクの調子を見る。
使用しているペンのコンディションが日々変わるため、画面にペンを落とす前には必ず最後の手順を行う必要があります。
夜間の制作中は部屋の照明とライトの明かりを頼りにするものの、作品のサイズが大きく、自分自身が作業机の周りを動き回りながら体ごと画面に覆いかぶさって描き込むので手元が影になりやすく、自分が描いている線がはっきりと見えないことも多いです。 このような場合、何を見ながら迷路の線を描き進めていくのかというと、線の部分と余白部分のコントラストの差を見ながら描き進めています。
人間の目は恐ろしく良くできたセンサーだと感じます。わずか0.0数ミリの乱れであっても、それを察知することが出来ます。コントラストを感じながら線を描き、乱れを感じたら修正を行うことを1時間から2時間ほど続けて1回の描き込みを終了します。
実体のあるものは、光を得て視覚に捉えられます。夜間の描き込み中は昼間の制作に比べると手元の光の量が乏しいため、描いている線の性質を見極めたり線の状態を明確に得ることが難しく、制作中の目への負担も大きいように感じていました。 しかし先日、久しぶりに昼間の明かりの中で制作を行ってみると、夜間の制作には無い作品の描きづらさを感じることに気付きました。
自分が制作に使用しているペンはペン先から生々しいインクが出るので、線を描いてしばらくの時間、インクは濡れた状態で光っています。この濡れて光っている状態の線が昼間の光によって明瞭に見えていると、夜間の制作よりも神経がすり減り、1本1本の線に対して緊張するのです。 これは制作中の光に対する気付きですが、その他にも日々の制作中には、状態による作品(線)に対する影響の気付きを得るように努めています。
部屋の温度、湿度の状態によって、制作にどのような影響があるのか。多少の眠気はある方が良いのかどうか。空腹感はある方が良いのかどうか。ライトの向きはどの向きが良いのか。ペンを持つ位置はどの位置が良いか。ペンから出るインクの量は、どれくらいまでならストレス無く描けるのか。作品を描き込む時間帯は、どの時間帯だと体のコンディションが良いのか。音楽やラジオを流しながらの制作と、無音状態の制作のどちらが良いのか。制作中、頭に思い浮かべる内容によって、描き込むペースはどうなるのか。なんらストレス無く制作に没入できた日は、どのような状態だったのか。制作中、すっきりしない状態だったときは、何が原因だったのだろうか。休憩を挟んだあと、どれくらいの時間描き込むと線が安定してくるのか。目の疲れ具合によって、線の見え方や焦点の合い方はどのようになるのか。
状態によりその結果を得て、良い結果が出たときはなぜ良かったのか理解し、逆に、結果が悪かったときには、何が原因で悪かったのかを検証することを絶えず繰り返すことにより、無意識にベストの状態を引き出せるようになるはずです。なぜならば、作品の制作に没入でき、ストレス無く線が描けている時は、ほとんど頭を使うことはなく自然とペン先を思うところに落とし込み、それが当たり前のように00.数ミリの微細なペンの操作を行い続けることができるからです。考えずとも体が動いている状態へと意識的に入れるようになるためには、日々の繰り返しと検証が必須だと感じています。
NUMBER GIRL/TATTOOあり